2019年06月28日

モトグッツィ ルマン3 レストア記#4 【motoguzzi lemansV】

モトグッツィ ルマン3 レストア記#4 【motoguzzi lemansV】
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 さて、いきなりですがあらかた錆びを落とし、そして塗装で錆びを止め、そんな事を繰り返し行なって一ヶ月以上が経過しています。それなりにパーツも揃い出し、ネジを磨きボルトをワッシャーをひたすら磨いてマニュアルが無いので忘れないように部分的にバラし清掃、組み立てを行い、このようなビフォーアフターまで持って行くわけです。
とにかくステップラバーなどのゴム製品がカチコチのプラスティックのようになり、ヒビや割れが進行し、内部が錆びています。このステップラバーがなかなか手に入らず、茨城にありますノブヒルさんとWKRCで知り合った縁で多くのパーツを安く譲っていただきました。
グッツィや海外の旧車に造詣の深いノブヒルさんは旧車の販売も行なっており、ものすごく状態の良いモトグッツィのレアな旧車や、イタリア製の当時パーツにこだわったバイクを展示しています。
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その都度、外付けにバッテリーを繋いで通電チェックを行いながらの作業となります。注意点はサンポールを使って錆び落としを安価にしたものは翌日にはもう錆びがぶり返してしまいます。ですからしっかり錆びを落とした後は塗装なり、錆び止めケミカルを丁寧に塗布してあげなければなりません。

モトグッツィはほとんど全部と言って良いほどの車種が歴史あるドライブシャフトを介してリアを駆動するシステムになっていて、チェーンのメンテが必要ありません。これがチェーン駆動のマシンならばスプロケ関連やチェーンを新品に交換すれば済むとも言えますが、内部にオイルの皮膜がおそらくは残存している訳ですからハブにしてもギアにしてもエンジンにしても大きなダメージは無いと推理して作業を進めてきました。
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いよいよ物語は核心に入ってくるのですが、どうでしょう?
アルミ製シリンダーに、ニカジルメッキが施されたエンジン内部は予想通り美しい状態を保っていました。イタリアの工業製品やドイツの工業製品の当時のレベルがとんでもなく高い事がよくわかるかと思うのですが、どうでしょうか?

浅間ミーティングなど旧車の多いイベントに行くとよくわかるのですが、当時のヨーロッパの鉄やメッキなどの品質は圧倒的に日本より高いと思います。特に自転車など趣味にしている人は理解しやすいと思うのですが、細かく繊細で耐久性が異様に高いのです。そもそもモトグッツィ が長い歴史を生き残れたのは頑強で整備がしやすく、壊れないというモノヅクリが国の警察の白バイや軍、アメリカなどの白バイや世界に向けての輸出で評価されたからです。
対して日本の良さは他には真似できない圧倒的な流通量における大量生産による画一的なデータサンプルの蓄積による、トラブルの回避であり、高性能化です。これは素晴らしい事であり、世界に冠たる日本メーカーとして誇りに思うところじゃないでしょうか?でも、古くなって行くと、維持が困難なのが日本製品で、メーカーがパーツをすぐ作らなくなるのは新しい物を買って欲しい理由もあるでしょうが、欧州はパーツが無いのは日本だけで、海外から仕入れれば潤沢に存在します。

エンジン内部に収まったオイルフィルターは14本の13mmのネジと、プラス数本で止められたオイルパンを外さなければなりませんが、外せばこのようにクランクからピストンまで下から丸見えの状態になります。これを整備性が良いととるか、面倒と取るかなのですが、頑強にシンプルに作られたエンジンは腐食することなくニカジルメッキで守られ、オイルパンを外せばエンジンがなにかしらの理由で不具合を起こして金属が剥離したり、壊れてもこのオイルパンに落ちますので、すぐに原因が特定可能で、健康状態も推察しやすい作りになっています。
製造から36年、放置10年の車両の中身としては、もちろん走行距離が2万もいっていない事もありますが、綺麗な状態を保っているのではないでしょうか?

デロルトキャブから社外のエアクリ、パワークリーナに変更されていて、ケミカルで清掃後、クリーナーオイルを塗布して装着です。ノーマルの箱型も考えましたが、整備のしやすさを考えてこのまま使います。

オイル、フィルターを交換したら今度はプラグホールからオイルとガソリンを少し混ぜた物を挿入して、ギアを噛ませてリアタイヤを懸命に回してピストンとシリンダー内部をなじませます。
レストア作業はライダーズカフェ、浄蓮で行なっていたので、若いお客さんが手伝ってくれたりします。
音を聞いてみてください、ピストンが上下してキャブからエアを吸っている音が聞こえると思います。つまりそれがエンジンの圧縮によりキャブが霧吹きのようにエアとガソリンを送る音で、電気など一切使わないシンプルな機能がわかると思います。
それと同時にロッカーアームや、エンジン内部を通るプッシュロッド、タペットの点検を行いますが、ここでも、僅か数本のボルトを外せばエンジンヘッドが取り外せ、その調整が簡単にできるようになっています。
プッシュロッドで押し上げられた場所にあるアジャストスクリュー(画面上)をロックナットを緩めて調整するだけですが、これを5000km毎にやらねばなりません。最低限度、この調整を覚えないといけません。
シックスネスゲージ、0.2〜0.22で行いました。現代のよりだいぶゆるいですよね?
さて、いよいよ次回はエンジン始動ですかね。
posted by くらさん at 05:58| Comment(0) | TrackBack(0) | motoguzzi

2019年06月27日

モトグッツィ ルマン3 レストア記#3 【motoguzzi lemansV】

 モトグッツィ は日本でモトグッチなんて呼ばれ方をしているけど、正式にはモト・グッツィと言います。そんなことはさておき、ロンバルディアの青い空を思い浮かべながらほぼ毎日、明けても暮れてもレストア作業とパーツの発注に忙しい私です。これは実はもうある程度終わってから記事にしてるのでその時間を思い返すと、いろいろ思うところもありますが、さて今回は電気配線やホース類のリプレイスや点検を行った記録です。

実はレストア作業って凄い事のように思っている人もいるかと思うのですが、そんな事はありません。現代のコンピュータを積んだバイクではないので極めてシンプルで簡単な構造とも言えるのがこの時代のバイクです。
でも、何が何だかわからないと思われる方もいらっしゃるので、先ずは簡単に頭を整理することが大事なんです。

そもそもバイクや車って何で動くの?
シンプルに電気と空気とガソリンが燃える事で動いてます。
これは今の時代も変わる事なく、同じなのです。
僕のルマンに置き換えると、発電/オルタネータからバッテリーに行き、イグニッションコイルからスパークプラグに電気が送られ、キャブレタで空気を吸って、タンクからきた燃料と空気を混合させた物をピストンが動く事により注射器のようにシリンダ内にキャブから吸い出して、プラグコードが火花を散らし、シリンダ内で燃え、その力でピストンが上下運動を繰り返し、排気、吸気(燃料含む)の連続運動を行うだけの物です。
エンジンをかけるためにセルモーターが点火の前にピストンを動かしてくれたり、キックで人間が動かしているから、始動は行われるわけです。つまり、シンプルに通電が行われ、ピストンがスムーズに動き、キャブが空気と燃料を適切に混ぜた物をエンジンに放り込んでくれればいいだけです。

壊れた、調子が悪い、と思うなら電気、空気、燃料がまず適切なのかを考え、さらに注射器と同様のピストンが適切にキャブから空気と燃料を吸い出せているか?(圧縮)を考えれば理解できると思います。

でもそれにプラスして知識の領域が広がると、プラグの点火タイミングや、キャブの燃料と空気の混合率の調整や、エンジンの吸気、排気弁、つまりバルブやそれに伴うタペットの調整の技術や専門的な知識が必要な工程に入ってきます。
でも、恐れなければ先ずは10年前は無事に走行していたのだから、空気、燃料、電気をチェックしていけば道は拓けてくるものです。
それが理解できれば、ほら、たかがボルトを緩めて締めるだけなのですから誰にでも可能なことかと思います。最悪わかんなくなったらプロに頼んじゃえばいいんです。でも、何も理解できないで頼むことは出来ないと思いませんか?

これエンジンかからないからなおして?とか、調子悪いんだけどどうしたらいいか?なんて持って行っても、プロの整備士だって原因なんかわかるわきゃないんです。だって、普段からそのバイク見てないなら、消耗部品のサイクルや、エンジン内のパーツの交換サイクルなんか壊れた症状で理解できる範疇は限りなく少ないんですよ。
何故エンジンがかからないのか?だけで無限の可能性があったりします。
プロにも責任がありますから、受けた以上は直さなければなりませんし、不具合を見つけなければならないので余計な時間と作業が山ほどかかって請求の値段に乗ってきます。

それなら、壊れた箇所を名指しでこれだけ交換してちょうだい、点火時期がズレちゃってるみたいだから調整してちょうだい、とピンポイントで言うことが出来ればそれしかプロには責任がありませんし、それだけやればいいわけですから金額も安くなりますし、技術者との会話も弾んで仲良くなることもできますよね。

そうするためにはこのモトグッツィ ルマンの全ての状況を把握しないといけませんので、自分でレストアを行なって現状を明確に確認しているのです。
お店との信頼関係が揺らぐときってだいたいは自分の知識不足だったり、経験不足だったりする中で、極力安くお願いしたい場合に起こる場合が多いです。
プロとしてはあれもやったほうがいい、これもやったほうが先々安心だと思っていても、乗る側は理解できなければ、とりあえず壊れた箇所だけを修理する金銭しかなければ、そこだけ修理して送り出します。店側もなるべく安くやってあげたいとも思うでしょうから。
そして短い期間でまた違う箇所が、、、というジレンマに陥り、嫌になり手放したり、技術者の責任にして悪口を言う人も実に多いと思うのですね。

それらが面倒なら新車を購入して同じディーラーで整備を継続的にやってもらうしか無いわけで、こういった古い不動バイクを手に入れることがどういう事なのか?
それを考えた先にある、それに乗り続けたい、走りたいという幸福感を私は求めているわけです。

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ルマン3はエンジン本体からブリーザーホースが出ていて、フレームの中に接続されています。もうあちこち劣化で切れてしまっているので新品に交換しました。エンジン側に簡易な弁がついていて圧で開く仕組みですので、ホースなんかホムセンで径と耐久度が合えばなんでもいいわけですし、逆にレーサーみたいなしっかりとしたホースを組んでも安くてカッコ良いのですが取り敢えずは手に入るノーマルパーツは発注というわけで、新品と交換しました。リタン側は見当たらなかったのでホムセンで耐油性の高いホースに交換です。
タンクやキャブを外してしまえば劇的に整備性が良くなるのがこの手の年代のバイクのお約束。
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IGコイルの抵抗値を調べ配線の電圧も調べ、さらに接点を磨き。
わからなくならないように写真を撮りまくります。
なにせ手元にマニュアルもありませんし、ネットを検索しても当然、そんな記事は出てこないのです。ネットや検索は万能って思ってる人もいるかもしれませんが、所詮はネットに載っている物は2000年代以降の知識が大半だったり、古い物でも現代に流行して流通している物は書く人もいますが、そもそも台数も少ないこの手のバイクはパーツごとに清掃や取り外しをしながら、組み上げて行くしか方法はありません。
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真ん中の太いのがプラグコードとなり、奇跡的に手に入れた配線図を追いながら線や接点の劣化を確認し、直して行きます。プラグコードは当然、カバーも含め、全部ダメになっているので交換となりました。プラグはイリジウムに変更し、コードは赤のシリコンコードにしました。
当然この手のモノも磨き上げ、長年の埃や錆、汚れをきれいに落とし、再度戻して通電確認をしていきます。
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キャブレターは時間がかかるので、そこからエンジン内に雨やほこりが入らないようにしっかりと蓋をし、ブリーザー関連、イグニッションコイルとプラグ、プラグコードの交換ができました。

モトグッツィはエンジンを下ろす事はそれほど労力がいりません。
でも、出来れば2万も走行していない車体ですのでエンジン、ミッション周りは問題がないと思いたいわけです。ですからこのまま乗せた状態で作業を進めて行くのですが、当然、かからなければエンジンを下ろし、分解、清掃、交換をしていかなければなりません。
posted by くらさん at 03:33| Comment(0) | TrackBack(0) | motoguzzi

2019年06月23日

モトグッツィ ルマン3 レストア記#2 【motoguzzi lemansV】

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先ずは現場確認からスタートです。
※リアサス
バンプラバーが砕け、砂のような状態。スプリングに錆び。
これはもう新しい物に交換しましょう。
※フレーム
削れた部分に錆びあり、錆びを削り落とし、ところどころ塗って行く作業で対応することに決めました。本来は頑丈な結晶塗装などをほどこしたい所ですが、今回は見送りです。
※電配線/ハーネス
外装を外し、1日かけて通電テスターなどでチェック。
メインハーネスはOK
イグニッションコイルOK
プラグキャップ、コード 交換
バッテリー 交換
接点磨き 各部清掃で対応
ハンドル周りスイッチ類
点検、接点強化ハンダなど
スターター 動作確認/のちにこれが問題に
※油脂類
洗浄のため、一旦すべて交換し、走り始めたら再度交換
※ブローバイ関連
全交換
※ワイヤー類
全交換
※キャブレター周り
オーバーホール
※ブレーキ F/R
オーバーホール パーツリプレイス
※タイヤ
F/R チューブ含め全交換
※サイドスタンド
交換
※エンジン
点検調整
※ミッション/フライホイール
点検調整
※ドライブシャフト
ブーツ交換 点検
※フロントサス
カートリッジ式のため、先送り
※燃料タンク
錆びがひどいので錆び落とし
燃料コック 要交換
燃料ホース 要交換
※ベアリング類
点検 注油
※排気
マフラー清掃
フランジ 清掃
上げたらキリがないですが、あらかたの感想はハーネスが生きているだけでも一安心、時間をかければ動くようになる。というのが結論です。ここから悪戦苦闘の旅が始まるのですが、ツイッター上では日刊モトグッツィを作ろう!などというタグをつけて毎日、なにかしらを治すように心がけて行くことに決めました。
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レストアで大切なのは掃除だと思います。
きちんと見えない部分も含め、ひとつひとつのパーツを外して磨いてあげなければなりません。動くからいいや、動作しているからいいやでは、そのうち汚れや古くなってへばりついたオイルが故障の元になっていくものだと思います。
アルミヘッド周りの清掃は困難を極めますが、このルマン3だからこそレストアに光明が見える部分もあるのです。それは、モトグッツィでは初めてアルミヘッドを採用し、ニカジルメッキをシリンダー内に施していることから、放置されていても錆びや、破損が起きている可能性は少なくなっています。

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タンクの錆落としは何度も繰り返し、ケミカルと湯で行いましたが、完全に除去とまでは行きませんでした。これ以上は無理というところで再発防止材を添加し、ごまかす感じですかね?
これはあまりおすすめできませんが、これ以上やるとおそらくタンクからガソリンが漏れる可能性があり、そのうち、新しいタンクに交換したほうがコスト的にも優しいでしょう。
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ネジ類の錆び落としも重要なんです。
この年代のマイナーバイクに使われているネジは、そのへんであまり手に入れられるものではありません。特に、13mmであるとか、日本では馴染みのないサイズのネジが大量に使われており、工具を揃えるだけでも大変です。

思っていたよりは重症ではなく、かといってこれらを業者に頼めば大変な金額にもなります。正直、この段階ではパーツがすべて揃うかの自信もありませんでした。とにかくあとは磨くだけ磨き、組み付け、やっていくしかないでしょう。
posted by くらさん at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | motoguzzi

2019.6.22 FMやまと

FMやまとでのラジオは全世界(笑)でサイマル放送として視聴可能です。

 さて、今回から放送後記として記事をアップしていこうかと思います。
今週の内容は以下の通りとなっております。

【フリートーク】
青春時代の憧れ、バイクと青春について。
今回手に入れた、モトグッツィについてです。

【あの頃の僕らに突っ込みを】
その昔流行した曲の詩を、その時代の背景とともに語るコーナーです。
今週はチェッカーズ Jim&Janeの伝説
80年代に青春を送ったバイク乗りならわかる歌詞の内容。
暗い内容ですが、送り火のような尾灯の表現、若さだけが持っている
感傷的ではあるが、感受性豊かだったあの頃の若者たちの感性を
表現した歌詞ではないでしょうか?

【モーターサイクルフレンドシップ バイクの輪】105回
今回の出演は 木内万絢(きうちまひろ)選手
8歳からバイクに乗り、レースの世界へ羽ばたく17歳女子高生。
とてもしっかりとした受け答えに感動しました。
愛車CBR250RRで、ドリームカップ参戦中!
多くの選手が幼い頃から両親の影響でバイクの世界に入り、レース活動
をはじめるが、木内万絢さんは自分で興味を持ち、道を切り開いています。
リスペクトですよね!ほんとうに。
女性と男性のレース現場での差、あくまで自然体でニュートラルな精神状態
でレースに挑み、大雨のコンディションで表彰台に立った話。
いずれ世界の舞台に羽ばたいてゆくのではないでしょうか?

【横濱ローズ】
相変わらず、空気の読めない年齢不詳の謎の女。
歴史上の人物から神の世界まで、網羅する男性遍歴を持つミステリアスで
個性あふれるローズさんですが、今日の語り?は友人だと言い張る、
エカチェリーナ2世のシモの話。
おいおい、リスペクトすべき若い女性レーサーの素晴らしいお話の後に、
なんて話をするんだ、この人は。。。。

今週も、ゲストの素晴らしいお話と、オバカさんな僕らのラジオの明確な
コントラストにおつきあいいただき、ありがとうございます!

posted by くらさん at 07:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 放送後記

2019年06月22日

モトグッツィ ルマン3 レストア記#1 【motoguzzi lemansV】

【motoguzzi lemansV】モトグッツィ ルマン3
 若き日の憧れ、モトグッツイ ルマン3についてまずは話したい。
イタリア最古のメーカーであり、ジョヴァンニ・ラヴェッリとエンジニアで社名の元となったカルロ・グッツィ、富豪のジョルジョ・パローディの3人がイタリア空軍に招集されて出会い、戦争が終わったらメーカーを立ち上げようと誓い合ったことがきっかけで創業した、なんていうのは、Wikiやネットを見れば興味を持てばすぐに理解できる内容だ。

 この1921年創業のイタリア最古のモーターサイクルメーカーはテストコースすら持たない、なんと創業当時から会社の屋上でエンジンをかけ、検品し、街中の一般道や高速道路でテストを重ねるメーカーだ。そしてロンバルディアの創業場所すら変更されたことはないのである。
つまりこの僕の愛車となるルマンも世界中で走るモトグッツィの新旧を問わず、すべて同じ場所で作られ、ロンバルディアの空や風に触れながら世界中に運び出されていった車両ということになる。

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ガレージで数年、外でカバーをかけてさらに数年放置されてしまった車両は、もちろん前オーナーが愛情がなかった訳ではなく、僕の年齢になれば他人事ではないが健康の問題と置き場所の事情でゆっくりと朽ち果てる過程にあった。
僕は青春時代にこのルマン3に憧れがあり、特別な感情があった。
ある雑誌の記事で読んだ真紅のルマン3は小僧だった時代には高嶺の花であり、生涯乗ることはないであろう手の届かない花とも思える金額だったのも覚えている。
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目の前のそのかつての高嶺の花はステップのゴムは破れたまま硬化し、リアサスのバンプラバーは土となって崩壊し、懐かしいタイヤ、ピレリファントムは弾力も失いプラスティックのように硬く、埃と砂をかぶったデロルトキャブレターは崩れ落ちる寸前のような状態でそこにあった。
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誰でもどんなに憧れていても金銭の問題ではなくても、手におえない世界というのが世の中にはあることを僕の年齢になればよくわかっているつもりだ。
前オーナーはいつか直して乗ろうと体調を崩されても所有し続けていた。その気持ちは金銭などではなく、転売などせずに末長く顔のわかる相手に譲りたい、直して乗り続けてくれる人に託したい。というものだった。
思いの深さや責任は、自分勝手ではない正当なバイク乗りならば必ず理解できるはずだ。

散々に悩み俺に手に負えるのか?自問自答を数ヶ月繰り返した。
この状態のバイクをレストア工場に出すなら、とんでもない金額になってしまうだろうし、そもそもこの年代のバイクは日本車であれ、海外であれ、乗り手がそれなりの知識を持ってメンテナンスを行えなければ長期間の維持など不可能なものである。
考えてみて欲しい、ほとんどの人は同じバイクに数年乗って乗り換える。それは悪いわけではないし、僕だってすべてのバイクを長期間維持してきたわけではない。ほんの数年、下手すれば数ヶ月で乗り換えたことだって何度もある。
それは免許条件が変わったり、使用しているフィールドが大幅に代わり、例えばキャンプや旅、林道やレース、人は欲張りにも多くの環境変化により乗り物を道具として変更して行く。

僕の年齢になると何故か時間の進みが早足に感じ、気がつけば十年なんてことはザラにあるだろ?だからこそ僕はこの若き日に惚れたバイクに向き合い、それを直し、生涯の伴侶として売ることもなく乗り続けなければならない覚悟が必要だったのだ。
だが結局、僕は写真のように跨った瞬間心が決まってしまった。
冒頭のモトグッツィの歴史に述べた通り、このメーカーは熱く、強い友情の絆によって生み出されたメーカーであり、いまだに創業の地ですべてのバイクを生み出している唯一といっていい古豪メーカーだ。
その歴史はまもなく100年を迎えることになる。
1981年から生産され、1983年までのわずかな期間に生産されたこのルマン3は、1976年の初代ルマンからの流れを汲む850ルマン最後のモデルであり、完成度も非常に高い。跨った瞬間、朽ち果てかけたルマンが僕に語りかけた気がしたのだ。それは決して助けてくれ、などというものではなかった。それは、多くのライダーが跨ったら買うしかない、跨ったら終わりだ。と思った時に感じるものと同じ、その瞬間に感じたさぁいこう、俺と走りに行こうぜ!という風と走り続けるビジョンだった。

こうして僕とこのmotoguzzi lemansV モトグッツィ ルマン3のレストアがはじまったのだ。ほんとうに僕のバイクになるのは動き出して、前のオーナーに見せにいって喜んでもらってからだと思っている。
そして愛車になるのは、前オーナーの家で迷いながらも跨った時にコイツに語りかけられたビジョンを見てからである。
posted by くらさん at 02:34| Comment(0) | TrackBack(0) | motoguzzi